「カイト」

もう一度名前を呼んでみた。これだけ時間が経ってもまだ意識があるということは、一応急所は外してくれたのだろう。 けれど、きっと全て、時間の問題。雨はまだ降り続いている。目が霞んでよく見えないが、カイトは相変わらず笑っているのが分かった。

「そろそろ時間ですかね?大丈夫ですよ、心配しなくても。ちゃんと綺麗にしてあげますから」

あぁそうか、大丈夫なのか。と安堵する。普通だったら何が大丈夫なものか、と思っているところだが、今の俺は思考回路がショートしているらしい。 ほっ、としてしまったことに、はは、と自嘲した。きっと、俺は笑えてないと思うが。

「マスター」

ふわりとした優しい口調。返事をしようとしても、口が上手く動かせない。 ドクドクと流れる赤い液体の感触をやけにリアルに感じて、ああ、もう俺は駄目なんだな、と痛感した。
意識が遠のく。瞼が重い。
最期に見たのは、笑顔と、




「ごめんなさい」




雨が、止んだ。





 








降り続くの中
(止まない雨)














*倶亜
09,01,29